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第六章 観測者の罠

Auteur: 佐薙真琴
last update Dernière mise à jour: 2025-11-26 05:02:13

 水曜日の朝、アオイは学校を休むことにした。母に体調不良を告げ、部屋に残った。

 もう、日常を演じている余裕はなかった。

 アオイは、ノートを読み返した。歴代の柊アオイたちが残した記録。彼女たちの発見、推測、そして失敗。

 特に、第三十二代目の記録が興味深かった。

『私は気づいた。この実験の本当の目的は、「観測」そのものにある。 被験者である私たちが、どのように世界を認識し、どのように異常に気づき、どのように反応するか。そのプロセスこそが、研究の対象なのだ。 つまり、私たちは観測される存在であると同時に、観測する存在でもある。』

 観測者であり、被観測者である。そのパラドックス。

 アオイは、窓の外を見た。いつもと変わらない街の風景。でも、それは本当に「いつもと同じ」なのだろうか。

 ふと、

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     木曜日、金曜日、土曜日。 アオイは、普通の日常を過ごした。 学校に行き、授業を受け、ユウカと笑い、家で母と夕食を食べた。 すべてを知った上で、その日常を味わった。 不思議なことに、心は穏やかだった。 かつては「偽物」に思えた日々が、今は愛おしかった。 ユウカの笑顔。母の優しさ。街の人々の温かさ。 たとえそれがプログラムであっても、アオイが感じる感情は本物だった。 土曜日の午後、アオイはユウカと図書館に行った。「ねえ、アオイ。最近、元気になったよね」 ユウカが言った。「うん。色々、考えることがあって。でも、今は大丈夫」「よかった。心配してたんだよ」 ユウカの言葉に、アオイは微笑んだ。「ありがとう、ユウカ。あなたは、私の大切な友達だよ」「えー、急にどうしたの? 照れるじゃん」 ユウカは笑った。その笑顔が、アオイの心を温めた。 図書館では、また書庫を訪れた。老人は、相変わらずカウンターにいた。「また来ましたね」「はい。今日は、友達と一緒です」 老人は、ユウカを見て微笑んだ。「ようこそ。ごゆっくり」 書庫の奥で、アオイは例の閲覧室に入った。机の上には、また新しいノートが置かれていた。

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     水曜日の朝、アオイは学校を休むことにした。母に体調不良を告げ、部屋に残った。 もう、日常を演じている余裕はなかった。 アオイは、ノートを読み返した。歴代の柊アオイたちが残した記録。彼女たちの発見、推測、そして失敗。 特に、第三十二代目の記録が興味深かった。『私は気づいた。この実験の本当の目的は、「観測」そのものにある。 被験者である私たちが、どのように世界を認識し、どのように異常に気づき、どのように反応するか。そのプロセスこそが、研究の対象なのだ。 つまり、私たちは観測される存在であると同時に、観測する存在でもある。』 観測者であり、被観測者である。そのパラドックス。 アオイは、窓の外を見た。いつもと変わらない街の風景。でも、それは本当に「いつもと同じ」なのだろうか。 ふと、思いついた。 もし、自分が観測者の立場だとしたら―― アオイは図書館へ向かった。老人に会う必要があった。 図書館に着くと、老人はカウンターにいた。アオイの姿を見て、微笑んだ。「また来ましたね」「聞きたいことがあります」「どうぞ」 アオイは、真っ直ぐに尋ねた。「私は、本当に被験者なんですか?」 老人の表情が、わずかに変化した。「どういう意味ですか?」「地下の記録には、私が被験者だと書いてありました。でも、もしかして……私は観測者の側なんじゃないですか?」

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     火曜日の朝、アオイは早起きした。学校へ行く前に、パン屋に立ち寄るためだ。 パン屋は、街の中心部にあった。小さな店で、いつも焼きたてのパンの香りが漂っている。店主は優しそうな中年の女性で、いつも笑顔で客を迎えていた。「おはよう、アオイちゃん。今日は早いのね」「おはようございます。朝ごはん用のパンを買いに来ました」 アオイは店内を見回した。棚には、様々な種類のパンが並んでいる。クロワッサン、バゲット、メロンパン、あんぱん…… そして、アオイは気づいた。先週の火曜日、ユウカと一緒に通りかかったとき、同じパンが同じ位置に並んでいた。 アオイは数を数え始めた。クロワッサンが十二個、バゲットが八本、メロンパンが十五個…… すべて、記憶の中の数と一致した。「どれにする?」 店主が尋ねた。「あの……毎週火曜日、同じパンを同じ数だけ焼いているんですか?」 店主の表情が、一瞬だけ固まった。でもすぐに笑顔に戻った。「そうよ。火曜日は、決まったメニューなの。お客さんが覚えやすいように」「でも、売れ残ったらどうするんですか?」「不思議なことに、いつもちょうど売り切れるのよ」 その答えに、アオイは確信した。これもまた、プログラムされたパターンなのだ。「クロワッサンを二つください」「はい、どうぞ」 パンを受け取り、店を出た。学校

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     アオイは、どのくらいその場にいただろうか。時間の感覚が失われていた。頭の中は、混乱と恐怖でいっぱいだった。 自分は、実験の被験者だった。この街も、住人たちも、すべてが実験の一部だった。そして、記憶は何度もリセットされている。 でも、待って。アオイは立ち上がり、もう一度ファイルを読んだ。 これまでの実施回数、四十七回。現在は四十八代目。 ということは、五十年前の日記を書いた柊アオイは、もっと前の世代なのか。それとも―― アオイは、ファイルをさらに調べた。古い記録が挟まれている。『第1回 1975年4月1日~9月28日 結果:被験者は真実に到達。記憶リセット実施。』『第2回 1975年10月1日~1976年3月15日 結果:被験者は真実に到達。記憶リセット実施。』 記録は続いている。そして、興味深いことに気づいた。 すべての実験は、同じ「柊アオイ」という被験者に対して行われている。しかし、実施日は異なる。あるものは数ヶ月、あるものは数週間で終わっている。 つまり――同じ人物の記憶を、何度もリセットして、繰り返し実験しているのだ。 アオイは震えた。では、自分は誰なのか。本当に十四歳なのか。それとも、もっと年を取っているのか。 いや、違う。時間の流れ自体が、この実験では操作されているのかもしれない。 アオイは階段を駆け上がった。図書館の書庫に戻ると、老人はまだそこにいた。「真実を、知ったのですね」 老人の声は、穏やかだった。「あなたは……誰なんです

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     月曜日の放課後、アオイは学校を早退した。体調不良と告げて、保健室から出た。嘘をついたことに罪悪感を感じたが、それ以上に、あの日記の続きを読みたいという欲求が勝っていた。 丘を登る石段を、息を切らしながら駆け上がる。図書館の扉を開けると、例の司書の老人がカウンターにいた。「あら、また来てくれたの?」「はい……本を、探していて」「どうぞ、ゆっくり」 アオイは書庫へ向かった。昨日見つけた場所。革装丁の日記が置いてあった棚。 しかし―― そこには、何もなかった。 アオイは慌てて周りを探した。他の棚も、床も、どこにも日記はなかった。消えてしまったのか。それとも、誰かが持って行ったのか。「何をお探しですか?」 背後から声がした。振り返ると、司書の老人が立っていた。いつの間に来たのだろう。足音も聞こえなかった。「あの……昨日、ここにあった日記なんですけど……」「日記?」 老人は首を傾げた。「革装丁の、古い日記です。1975年の観測日記って書いてありました」「ああ……」 老人は何かを思い出したような表情をした。「それなら、奥の閲覧室にあるかもしれません。特別な本は、そちらで管理しているので」「閲覧室?」「ええ。こちらへどうぞ」 老人は書庫の奥へと歩いていった。アオイは後に続く。 書庫の最も奥には、小さな扉があった。老人はポケットから鍵を取り出し、それを開けた。「ここが閲覧室です。どうぞ」 扉の向こうは、小さな部屋だった。窓が一つあり、机と椅子が置かれている。そして、棚には数冊の本が並んでいた。 その中に、あの革装丁の日記があった。「これです!」 アオイは日記を手に取った。老人は優しく微笑んだ。「その本は、特別な本なんです。読む人を選ぶ本、と言ってもいいかもしれません」「読む人を選ぶ……?」「ええ。では、ごゆっくり」 老人は部屋を出て、扉を閉めた。アオイは一人、閲覧室に残された。 机に座り、日記を開く。前回読んだページを探し、その続きから読み始めた。『5月10日 晴れ 私は、この街に何か秘密があると確信した。そこで、調べることにした。夜、五時を過ぎてから外に出てみることにする。』 アオイは息を呑んだ。五時のルールを破ったのか。『5月11日 曇り 昨夜、五時を過ぎてから外に出た。街は静まり返っていた。でも、奇妙なこ

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